美学生インタビューInterview
『絶対にできないと思っても必ず出口はあるし光は見えてくる』
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1.自己紹介をお願いします。
関西学院大学の人間福祉学部社会起業学科3回生、松本浩美と言います。大阪で「Homedoor(ホームドア)」というホームレスの方たちなどを支援するNPO法人の事務局長をしています。
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2.Homedoorはどんな組織で、松本さんはどんなことをしていますか?
私たちは「ホームレス状態を生み出さない日本に」というビジョンを掲げ、ホームレスや生活保護受給者の予防、雇用の創出をしています。主に2つの事業をしており、1つは「HUBchari(ハブチャリ)」というシェアサイクル事業です。A地点で借りた自転車をB地点やC地点など、借りた所以外でも返却できるレンタサイクルに似たサービスで、月額980円で毎日借りることが出来ます。自治体やホテルなどに協力してもらい大阪市内に8ヶ所拠点を作っていて、今後も増やしていく予定です。
もう1つは「釜Meets(かまミーツ)」といい2、3ヶ月に1度ホームレスや生活保護受給者が日本で一番多い大阪・釜ヶ崎で街歩きやワークショップを開いています。おっちゃんたちの普段の1日や、どうしてこういう生活をしているのかを知ってもらうのが目的ですね。私はHUBchariのグッズや自転車に付ける備品、営業に使う書類やチラシ・パンフレットを作ったり、会計や総務などを担当しています。実際に現場で協力してくれる企業さんと話すこともありますし、なんでも屋さんという感じです。 -
3.どうして自転車の事業を立ち上げたんですか?
夜回りをしてホームレスのおっちゃんたちと話していると、自転車修理ならできるという方がすごく多かったんです。おっちゃんたちは空き缶集めなどで生計を立てている方がたくさんいるんですが一生懸命集めても1日800~1000円ほどにしかなりません。なので運搬に使う自転車が壊れても修理に出すお金がなく、自然と自分で直す能力を身に付けているので、この力を生かせる仕事を作れないかと考えて自転車に関する事業を始めました。でも修理だけだと他にも競合がいるので、新しい仕組みとして注目したのがシェアサイクルです。自転車の修理や貸出返却の受付をしてもらい、野宿生活をされている方へ最低賃金以上の金額をお支払いしています。シェアサイクル自体は横浜や名古屋、海外でも実験が行われており、今後市民の足になって「HUBchariやおっちゃんたちがいなければ困る」と言われるようにな公共交通化を目指したいですね。
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4.夜回りで暗い中、ホームレスの方に声を掛けるのは怖かったりしないんですか?
中学の頃から炊き出しや夜回りに参加する機会があったので、おっちゃんたちと話すことへの抵抗や怖いというイメージは持っていません。友達や知り合いと普通に話す感じで喋っています。おっちゃんたちも私のような学生や子供、女性の方が話やすいみたいで、ちょっと話し聞こうかなってなってくれますね。中には心を開いてくれず「なんやおまえら!」って追い返されることもありますが、それは「ホームレスだから」ではなく、あまり干渉されたくない方なので、性格を勝手に決め付けつけないようにしています。
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5.中学生の時に今のような活動を始めたんですか?
中学1年生の時に同じクラスの子たちが学校のボランティア部にたくさん入っていて、釜ヶ崎という場所へ炊き出しに行っているという情報を手に入れたんです。その時はそこが危ないと言われている地域だとか、どういった人が何をしているのか全然分からなかったんですが好奇心から行ってみました。当時12歳だった私は自分の住んでいる所から電車で15~20分の距離にこんな世界があることに驚き、おっちゃんたちが当たり前のように床で寝て、おにぎり1個を貰うため2時間、3時間並んでいるという光景にすごいショックを受けたんです。ホームレスの方ってあまり仕事をせずに路上で寝ていたり、良い人じゃないのかなというイメージだけ漠然とありましたが、おにぎりを渡すと心からありがとうと言ってくれる方が多く、今まで偏見から悪い目で見てたなと感じました。それ以来きっと何か原因があると思い、色々調べてたり人から話を聞く機会がたくさん重なって活動に参加するようになりましたね。
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6.ホームレス支援を続けているのはどうしてですか?
他の分野って誰かが尽力していたりすると思うんですが、まず若い人がホームレス問題に取り組んでいる姿をあまり見たことがありませんでした。私の周りの人たちもホームレスとか汚いし嫌という意見を持っている子が多かったです。それに他の問題は色々と取りだたされるのに、この分野はどうして嫌悪感しか抱かれないのかと思い調べたら、親たちが子供に「ホームレスみたいになるからちゃんと勉強しなさい」とか「この人と目を合わせたらダメ」と教えていて、それが受け継がれて伝播し今の状態を生み出していたんです。でも私はおっちゃんたちだけが悪いんじゃなく社会構造にも問題があり、それをちゃんと伝えていけばもう少し解決するんじゃないかと思っていました。そんな中、釜ヶ崎の街案内をする機会が何度かあり、この街のことをもっと知ってほしいし知らせないといけないと感じ、今の活動を行なっています。
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7.日本の社会構造のどんなところが悪いと感じますか?
例えばイス取りゲームで10人が5つのイスを取り合っていたとすると、絶対に5人しか座れないじゃないですか。でも負けた人たちが悪いわけではなくイスが5つしかないので5人しか座れない。それと同じで5人の求人に100人が応募しても95人は絶対に落ちるわけです。最初から社会にはそれだけの枠しかなく落ちる人がいて当然なのに、落ちた人が悪いと言われ「お前の能力が足りなかった」「ちゃんと勉強してこなかったから」と見られる社会なってしまっています。今の日本はフリーターなどの非正規労働者が半分を占めていて、いつクビにされるか分からない、何かあればホームレスに転落してしまい、いつ命が脅かされるか分からない状態の人が実はたくさんいるんです。でも多くの人がホームレスと私たちが住んでいる世界は別で「だらけていたからホームレスになった」と思われていることが私はおかしいんじゃないかなと思っています。
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8.NPOの運営を続けるには苦労もありますか?
自転車は他のシェアサイクルの実験で使っていたものを寄付して頂きましたし、そういうものがないと私どものNPOはまだまだ厳しいところがあります。ですが、「こういう人を探しています」と言うと誰かが応えてくれることも多いです。前にも会計処理の仕方が分からず困っていると公認会計士の方が色々と面倒を見てくださいました。ちゃんと頑張っていたら見てくれている人もいるんだと思うとすごい嬉しいですね。なので心さえあればきっと誰かが手伝ってくれるので、ガッツとやる気とちょっとの能力があれば大丈夫だと思っています。あとは人に好かれるかどうかですかね。
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9.最後に読者の学生たちに伝えたいことは?
私は物事に限界を作るのが好きじゃなく、最初から無理だと諦めたら全部無理になると思っています。例え無理そうに見えても何らかの形で頑張っていれば成功することがあるし、失敗しても続けていたら必ず成功に近づくことはできます。それに手を差し伸べてくれる方がいるんだってことをHomedoorの活動を通して知ったので、絶対にできないと思っても必ず出口はあるし光は見えてくるので限界を作らず、自分のリミッターを外してやり抜くということを大事にしています。皆さんも何か大きな壁にぶち当たっても絶対にその壁は乗り越えられるものなので、やり抜いてほしいですね。
松本さん、お話ありがとうございました! (写真・文=小林純也)
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