美学生インタビューInterview
『「まなぶことを愉しむ」ことが当たり前の価値観になったら、世の中がすごく豊かになると思う』
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1.まずは簡単に自己紹介をお願いします。
辻本恵太と申します。京都大学の大学院生で博士後期課程の1年生です。理学研究科でキイロショウジョウバエというハエを使って「実験進化学」という分野の研究をしています。
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2.キイロショウジョウバエの研究とはどんな研究ですか?
京大って結構変なことをしていて「暗闇でハエを飼い続けるとどのように進化するのか?」という研究をしています。一世代だけではなく57年間、1400世代に渡ってずっと暗闇の中でハエを飼い続けています。人でも目が見えないと、視覚を補うように耳が聞こえやすくなったりするんですけど、ハエを使うことで、長期間世代を経ることで遺伝子にどう刻まれてどう進化するのかを研究しています。「成果がでないかもしれないことをやる」っていうのは京大スピリッツかもしれません(笑)
僕は現在、ハエの「行動」について研究していて、行動研究って言うとハエの前に静かに座ってノートを取っていると思われるかも知れませんが、今やビデオ撮影したものをパソコンの自動解析ソフトで調べます。細かな動きなど人の目では判らない変化まで抽出できるんです。僕らがやるのは例えば「こんな音を聞かせるとこう動くんじゃないか」と想定し、その行動を実際にさせるためにはどういう装置を作り、解析すればいいのかをあれこれトライします。ハエってオスがメスに求愛ソングを聞かせるんですけど、それを色んな音量で聞かせて、暗闇で飼い続けたハエと普通のハエで反応に違いがあるのかを検証したりしました。 -
3.この研究の魅力は?
ヒトはコミュニケーションをとることで相手のことが分かりますけど、虫や他の生き物って、少なくともヒトが理解できる形では喋らないじゃないですか。それを分かろうと思ったら研究するしかないんですよ。実際に音を聞かせてみて反応があると「聞こえてるで!」とは言わないですが、確かに聞こえてることがわかります。それって面白いなと思って。
あと、ハエくらいの生き物にも脳があって、記憶や学習をするので色んなことを覚えます。実は思っている以上に頭が良いんです。そうしていろんな生き物のことを知ることが、「人間とは」という問いの答えに一歩近づくことなんじゃないかとも思っています。 -
4.好きな虫、嫌いな虫ってあるんですか?
やっぱりゴキブリは嫌いかな(笑) いや、研究対象としては面白いですけど実際に掴むのは嫌っていう感じで、その辺は一般の人と変わらないですね。一番のお気に入りはゾウカブトです。他にも幼稚園の頃からバッタとかコオロギとか、アリジゴクまで捕まえて飼っていました。小さい頃は虫取り少年だったんですよ。
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5.学外ではどんな活動をしていますか?
「iNDIGO BLUE(インディゴブルー)」というボーイズシンクロエンターテインメントのチームに所属していて、全国各地のプールや水のない場所でさえ活動しています。高校生の頃は水泳部だったんですが、映画やドラマの「ウォーターボーイズ」がきっかけでシンクロを始めました。全国大会やテレビ出演を経験して、大学生になっても続けたいなと思っていたのですが、今年で7年目になるチームで未だに現役で活動しているとは僕自身驚きです。常に変化し続けるので、新たな発見の宝庫です。
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6.シンクロってどんなことをしているんですか? おもしろエピソードなどもあれば。
僕たちのシンクロは「シンクロライブ」なんです。完成された演技をただひたすら見ていただくのではなく、一緒に陸上で踊ったりメンバーに混じって自己紹介していただいたり、お客さんと供にシンクロ空間を作ります。最近ではプールの中の席なんかもご用意しています。今やプールの中の景色だってメンバーだけのものじゃないんです。
エピソードは……プールって言うと学校とかの四角いプールを想像されるかと思いますが、レジャー施設の曲がりくねった流水プールでもライブを行ったことがあります。主催者の方に「水の流れは止めます」って言っていただいて安心したんですけど急には止まらず、確かに水の流れを感じましたね(笑) そういうところで流れに耐えながらシンクロをしたこともありました。そういうのはもうたくさんという気持ちはなくて、むしろそういう経験を活かして、川でも海でもシンクロができるよう成長していきたいです!ライブって言ってるだけあって色んなことが起こり、色んなものができます。 -
7.シンクロで得たものってありますか?
たくさんの場所でたくさんの人と出会えました。研究だけしていても今ほど多くの人と知り合う機会ってなかったと思います。さらにそれがシンクロを通して築ける関係だというのが面白くて。僕は元々社交的ではなかったんですが、お陰で人との出会いを最高に愉しみ、大切にできています。
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8.他にも学外で活動されてるようですが。
「まなぶこと」においてもみんなが主役になれる場所を作ろうと「まなび」という団体の代表をしていて、「えほんづくり」などの活動をしています。絵本って、完成すると読む人と聞く人という関係になっちゃうんですけど、えほんづくりの活動ではワークショップなどで子供達と一緒に考え、みんなの意見を文字や絵にしながら一緒に創っていくんです。こちらが確実に伝えたいメッセージは入れつつも、子供達にも自由な発想で考え、学んでもらいながら一冊の絵本を完成させていきます。
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9.将来はどんな人間になりたいですか?
「まなぶこと」に本気で関わっていくということですね。今って何かを学んだり真面目に大学に通っているだけで無条件に褒められることって結構ありますよね。それは嬉しいことでもあり、悲しいことでもあるなと思っています。将来のためとか、社会のためとか、学ぶことのごく一部の目的だけに世間の目が向けられていて「学んでいる人=偉い人」という考えが共通認識になってしまっている。
僕は、自分はどういうことをまなぶのが好きで、どういうことをもっと知りたいのか、そういう根本を俯瞰して見ることで、まずはまなびをたのしむ、という基本姿勢を身につけてほしいなと思います。そうして「まなぶことを愉しむ」ということが個人の、そして社会の当たり前の価値観になったら、すごく世の中が豊かになるんじゃないかなと思ってます。 -
10.読んでいる読者に伝えたいことは?
僕みたいに大学の学部から院の博士後期課程まで、合わせて9年も大学生活を送れる人なんて稀です。凄く限られた時間で普通ならもう終わってるわけなので、もう少し早めに色々トライしても良かったのかなって思います。
学生生活の中で最初に知り合った団体などに4年間所属するのもいいんですけど、本当に自分のやりたいことがあるならそれをやってみるとか、色んなことにどんどん挑戦できたら楽しいと思います。たくさんのことをするほど1つにかける真剣度が落ちるという考え方もありますが、そういうことに引け目を感じないことですね。僕の場合、研究とシンクロ、2つの合わさった先にあるものが見えてきましたし、そこから「まなび」という団体も生まれました。またそれは自分の中だけじゃなく、自分がやっていることと相手がやっていることで、協力したらこういうことができるんじゃないかっていう発想にも活かせると思います。
経験値としてとにかく色々やってみるというのは、やりだした頃は全部バラバラかもしれないんですけど、繋がりを見出していく力にもなっていくので、愉しくまなぶ姿勢を持って 色んな人が色んなことにトライしていけたらいいんじゃないかなと思います。
辻本さん、お話ありがとうございました! (写真=辻村真依子、文=小林純也)