美学生インタビューInterview
「アナウンサーは社会を変えられるかもしれない」
まずは、アナウンサーを目指し始めたきっかけを教えてください。
小学4年生のある日、風邪で学校を休んで、家で『ヒルナンデス!』を見ていたんです。その時、日本テレビの水卜麻美アナウンサーが街ブラロケで食レポをしている姿を見て、母に「これは何っていうお仕事なの?」と聞いたら「アナウンサーだよ。」と教えてもらいました。体調が悪くてご飯が食べられなかった私にも美味しそうだなと感じさせてくれる、テレビ越しに人の感情を動かせる素敵な仕事だと感じ、憧れを抱き始めました。
小学5年生の時の文集には、将来の夢はアナウンサーと書きました。実際に文字にすると叶えなければという思いが強くなり、小学校を卒業する頃には自分はアナウンサーになるものだと思っていましたね。
幼い頃からアナウンサーを目指していたんですね!中学、高校と進学する中でもその気持ちに変化はありませんでしたか?
高校生の時にカナダに3年間留学して、そこで社会問題に関心を持ち、将来は社会に貢献できる仕事をしたいと思うようになりました。法的な視点で問題を解決できる人になりたいと思い、弁護士を目指そうと考えていた時期もありましたね。最終的に政治経済学部に進学しましたが、それも政治的な視点で社会を見てみたいという気持ちからです。
なるほど。ずっとアナウンサー一筋というわけではなかったんですね。
本格的にアナウンサーを志し始めたのは大学2年生になってからのことなんです。ただ、準備はしておきたいと思っていたので、入学してすぐにセント・フォースsprout(学生キャスターの事務所)に所属し、今年の3月には「学生アナウンス大賞」に出場しました。
私は何かを目指すとき、短期目標や通過点を設定してしっかりと道筋を描いてゴールへ進みたい性格なんです。4年間という限られた時間の中で何が出来るかを考えた結果、1年目は事務所に入って“アナウンサーとは何か”を学び、2年目はアナウンススクールに通ったりお仕事の経験を積んだりして、3年生で就活に挑むという計画を立てました。いきなり急加速するのではなく、長距離走のように同じペースでコツコツと走り続けるのが自分にとっては理想なんです。
先を見据えて行動していて素晴らしいです。アナウンサーを強く志し始めたのは最近とのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか?
今年の春に大学の政治に関する授業で、フジテレビの『Live News イット!』のワンコーナーを見たのがきっかけです。早稲田大学の先輩でもある宮司愛海アナウンサーが自ら区議会に足を運び、議員の方々がしっかりと参加しているかを調査するという内容だったのですが、なんと居眠りをしている議員さんがいたんです!
それを見た時、私は「こんなに不真面目な議員さんがいるの!?」と怒りを覚えました。と同時に、こんな風に視聴者に憤りを感じさせたり、この状況を変えたい!という気持ちにさせてくれる番組が素敵だなと思いました。取材班ではなくアナウンサーが現場に赴いたことで、より感情に訴えるものがあったように感じます。
一視聴者として心を動かされたことで、「もしかしたら、アナウンサーという仕事は社会を変えられるのかもしれない」と強く感じ、私が目標に掲げている“社会貢献”はアナウンサーになることで叶えられるのだと再認識しました。
バスケ選手にインタビュー!“本音を引き出す取材術”とは
これまで学生アナウンサーとして活動する中で特に印象に残っていることを教えてください。
今年の3月からリポーターを務めている『バスケットLIVE』という動画配信サービスのお仕事です。
私自身、中学・高校とバスケをやっていたのでルールは知っていたのですが、リーグなどはあまり見たことがありませんでした。特に高校バスケの情報はインターネット上にもほとんど載っていないので、選手に関することなどは自分の足で取材して調べた上でリポートに臨んでいます。
情報収集が大変そうですね。取材にあたって心がけていることはありますか?
選手やチームのことをしっかりと理解することです。例えば、キャプテンがどんな思いでその役目を担っているのか、前回大会での経験を踏まえて今年のチームにどんな変化をもたらしたいのかなど、背景を知っていないと深く切り込んで質問することができません。過去の試合やインタビューを見返して準備することの大切さを強く感じています。
取材する側の理解度によって選手が気持ちよく答えられることもあれば、言葉に詰まることもあります。特に高校生はインタビューに慣れていないので、的確な質問をしないと本音を引き出せないんですよね。
確かにプロと違って受け答えに慣れていない高校生に取材するのは難しそうです。インタビューに際して具体的に工夫したエピソードはありますか?
例えば「憧れの選手は誰ですか?」と質問したとき、その選手についても知っておかないと掘り下げていけないじゃないですか。なので、予想しておくんです。
バスケの世界は兄弟でやっている選手が多く、例えば2年前にキャプテンだった兄や、今はプロとして活躍している兄が憧れです、という答えが返ってくる場合があるんです。事前にお兄さんについて調べておいて、「お兄さんと自分を比べてどうですか?」などと質問すると、より深いエピソードが引き出せることがあります。
また、高校生は自分にないものを持っている選手に憧れることが多く、全く異なるプレースタイルの選手を挙げることもあります。その場合は、その答えが今年の目標に関連していると解釈して話を広げていきます。
まだ自分がどういう選手になりたいか定まっていない子もいますし、葛藤を抱えている子にインタビューすると、その年頃ならではの悩みや心境の変化が見えてきます。一つの質問から掘り下げていくことでバックグラウンドが見えてくるのが興味深いですね。
「理解はできないけど、配慮はできる」 カナダ留学で学んだ多様性との向き合い方
将来はどんなアナウンサーになりたいですか?
学生アナウンス大賞の最終審査のスピーチでもお話したのですが、世の中のさまざまな多様性に対して“配慮できるアナウンサー”になりたいと考えています。これは、高校時代に留学先でさまざまな多様性に触れたことや、私自身の実体験を通して感じたことです。
どのような多様性に触れたのでしょうか?
留学先で一番仲が良かった女の子は、恋愛対象が女性でした。その子からは最初に、「理解しなくていいし、同情もいらない。ただ、言葉遣いには配慮してほしい。」と言われました。例えば、「彼氏はいるの?」ではなく「パートナーはいるの?」といった言葉に変える、といった感じです。
ちなみに、英語では性別がわからない場合「They(彼ら)」と表現することがあるのですが、彼女のパートナーは男の子でも女の子でもないから「They」で呼んであげてほしいとお願いされました。その子がなぜそうなったのかは理解しなくてもいいから、ただそうしてほしい、と。
「理解しなくていい」……ですか。
よく「他人を理解しなさい」とか「多様性を理解することが大事」と言いますが、実際には理解できるものではないし、理解はしなくていいと私は思っています。近年、LGBTについて発信する当事者の方が増えていますが、その方たちは理解されたいから発信しているわけではなく、こういう人もいるんだと知ってほしいだけだと思うんです。
理解されないことといえば、私自身、カナダにいた頃に留学生ならではの葛藤を抱えていました。留学当初は、自分は日本人だし英語が話せないから宿題を減らしてほしいとか、映画を見る授業があったら字幕をつけてほしいとか思っていました。実際に先生にそのように頼んだこともありましたが、3年目になるとそのハンデが逆に重荷になり、ネイティブと同じ対応をしてほしいと思うようになりました。「今の理解できた?」と尋ねられると「できないと思われているんだ……」と思ってしまったりして、特別扱いされるのがだんだんと鬱陶しく感じるようになったんですよね。
こういった心境の変化って他人には理解しにくいもので、まったく同じ経験をした人しか共感できないと思うんです。だからこそ、配慮が大切だと思います。
確かに、他人のことを100%理解するなんて無理ですからね。
私の人生を他人に簡単に理解されたら逆にモヤモヤするというか、「理解なんて私以外にできるわけないじゃん!」って思ってしまいます(笑)理解はできなくとも、その人の生い立ちや心情に配慮して臨機応変に言葉を選べる、そんなアナウンサーになりたいです。