美学生インタビューInterview
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1.最初に自己紹介をお願いします。
初めまして、大川豪と言います。神戸山手大学の4回生です。生まれた時から「両耳感音声難聴」という障害で耳が聞こえません。普段は補聴器を付けているのである程度は普通に過ごせますが、外すと殆ど無音になってしまいます。
小学校から高校までは聾(ろう)学校といって、聴覚障害者が集まる学校に通っていました。今夢中になっているのがサッカー観戦で「KOBE BLOOD(神戸ブラッド)」という団体に所属し、地元のプロサッカークラブ「ヴィッセル神戸」の応援サポーターをやっています。
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2.高校まで聾学校ということは、健常者と同じ環境で過ごすのは大学が初めてですか?
そうですね、大学に行って初めて健常者の世界に入りました。小さい時から手話を使ったり相手の口元を見て言葉を読み取ったりして会話していましたが、聾学校の時とは違い、みんな早口でお互いの顔を見なくても話をするので、自分には何を言ってるかわからず、慣れるまで大変でした。
講義の時は「ノートテイカー」というボランティアが助けてくれます。筆記通訳者とも言って、自分と一緒に講義に出て聴覚障害者の耳の代わりになり、講義の内容を書き留めてくれるんです。
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3.サッカーの話に移りますが「神戸の血」、KOBE BLOODとはどんな団体なんですか?
ヴィッセル神戸のサポーター団体で、試合中にゴール裏の客席からピッチの選手を旗や掛け声で鼓舞したり、拡声器や持ってサポーターを盛り上げたりします。ヴィッセル神戸を知ってもらいたい、興味を持ってもらいたい、という「熱い血」を持った奴らの集まりです。
KOBE BLOODには応援用のTシャツとマフラータオルがあって、それを貰えたら団体の一員として認められるんです。
自分は確か高校3年生頃に貰って、現在はサブリーダーをしています。選手の応援だけじゃなくクラブ自体のサポートもしているので、試合がない日でもクラブのスタッフや選手と海岸のゴミ拾いなどのボランティアをして、一緒に地域密着の活動をしています。
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4.いつからヴィッセル神戸のファンなんですか?
僕は元々サッカーはあまり好きではなく、部活でやっていた野球にしか興味がありませんでした。
Jリーグは1部と2部に分かれていて当時ヴィッセル神戸は2部リーグに落ちていました。なのでチケットがすごく安かったので、サッカー好きの先輩から誘われて見に行ったんです。実はあまり乗り気じゃなかったんですが、スタジアムの迫力ある雰囲気とか選手同士の激しい競り合いとか、それにサポーターが自分の感情を思い切り出して一喜一憂している姿が衝撃的で、すぐにハマっちゃいましたね。今まで見たことない風景で本当に迫力のある雰囲気に惚れました。
僕は神戸が好きだから、自分の住んでいる町にこんな熱いものがあることを知って感動しました。ホームの試合は年間22、3試合あるんですが、今では基本的に全部行きますね。
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5.関西には他にもサッカークラブがありますが、どうしてヴィッセル神戸なんですか?
新聞か雑誌か忘れましたが、イングランドのあるクラブのサポーターに「どうしてこんなに弱いのに応援するのか?」って聞いている記事で頭に残ってる言葉があるんです。
イングランドにはマンチェスター・ユナイテッドやアーセナルっていう強いクラブがあるんですが、そのサポーターは笑いながら「俺の地元はここなんだ。その地元をホームとするクラブがあるのに、応援しない理由なんてあるのか」って答えていて、凄く共感しました。好きになるきっかけは人それぞれですが、自分の場合は“生まれ育った神戸が好き”という強い気持ちが、ヴィッセル神戸というものに繋がりました。
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6.応援する時に心がけていることはや苦労することって何ですか?
「楽しく応援する」これが重要です。つまらないと思ったら行きたいという気持ちがなくなっていまいます。
試合中は自分達が拡声器を持って「よし、頑張っていこうぜー!」という風にサポーターを盛り上げていくんですけど、人によっては感情が高ぶり過ぎて「おい、声だせよ!」と乱暴な言い方になるんです。
自分も昔そう言われて嫌な思いをしたので、絶対に乱暴な言い方はせず、常に楽しく応援できるよう心がけています。苦労することは、コールリーダーという人が声をかけて、その時々に合ったチャントと呼ばれる応援歌を歌うんですけど、自分は耳が悪いので間違って聞き取って歌ってしまい、恥ずかしい思いをしたことが何度かあります。聞き取るということはすっごく苦労します。
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7.やっぱり本気で応援するならスタジアムですか?
目の前でゴールを決めた時や試合に勝った時はいつも感動します。これは生で観戦しないと分からなくて、テレビで見るのとは全然違いますよ。
スタジアムにいると気持ちがこもってるので、味方が得点した時は知らない人とでもハイタッチするんです。勝った時はみんなで喜びを爆発させて、そこで一体感ができます。それからテレビではボールを持っていない選手ってあまり映さないので何をしているか分からないですよね。
でも、例えばキーパーなら「こっちこっち!」「早く戻れ!」とか常に声を出して指揮してるんです。「もっと盛り上げて!」という感じでサポーターを煽ってくれる時もあって、みんなテンションが上がって「よっしゃー!もっと応援しなあかんわー!」って感じになります。現地でしか味わえない雰囲気や臨場感があるので、少しでも興味を持ったら実際にスタジアムへ行って欲しいと思います。
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8.これから先の大川さん自身の夢は何かありますか?
耳が聞こえない応援家として有名になれたらいいなと思います。
常に「障害者だから何もできない」と思われたくないって気持ちがあって、耳が聞こえなくても「俺はこんなことができるんだよ」ってアピールしていきたいです。有名になって自分のような障害者もいるということを伝えたいし、タブーを破りたい。具体的には海外へ行って、世界各地にあるサッカースタジアムに行きたいですね。
世界の各地にはきっと自分のように地元のクラブをすごく応援してる人も多いと思うんですよ。そういう人達と出会いたいし、やっぱりその場でないと感じられないことがあるじゃないですか。それを目で見て肌で感じて、日本に伝えられたらいいかなって思っています。 -
9.最後に読者に伝えたいメッセージはありますか?
いくつになっても好奇心を持つことと、幸せを手に入れるより幸せを感じられる心を手に入れることですね。
自分は障害で差別をされたり、いじめられたりしたこともありましたが、大学で健常者と色々話をしているうちに自然とこういう思いが湧き出てきました。今は不景気とかでみんなすごく「しんどい」って言うじゃないですか。でもしんどい思いをするなら、ちょっとしたどうでもいいような出来事でも幸せだと感じられる心を手に入れたほうが楽しくなると思います。
ライブに行ったり旅行したり、みんなからしたら当たり前のような体験が障害者の自分にとっては、一つ一つ感動するわけです。だから幸せを求めるより、それを感じられるような気持ちを持ったら、人生観が変わると思う。みんなもそういう心を持ってほしいなって思います。
大川さん、お話ありがとうございました! (写真=辻村真依子、文=小林純也)