美学生インタビューInterview
周りの反対を押し切って進んだ『音楽』という選択肢
4回生ということでもうすぐ卒業ですが、大学では何をしているんですか?
「音楽表現コース」に所属していてピアノを専攻しています。ピアノ自体は3つ上の姉が先にやっていて、その影響で4歳の時に習い始めました。
小さい頃はどれくらい練習してたんですか?
小学生の時は毎日3時間くらいです。1日ピアノに触らないと腕前が1週間戻ってしまうっていう都市伝説があって、怖かったので毎日練習してましたね。毎年必ずコンクールにも出てたので、あまり遊ぶ時間はなかったです。
その頃からピアノ一筋なんですね。
いや、中学高校の頃は違う世界を見てみたいという気持ちがあったのでハンドボール部やバドミントン部に所属してピアノから離れていました。ずっと運動部に入りたいな~って憧れがあったんですよ。だからピアノは習っていた先生の元で週に1回だけって感じで。
意外です。ずっと続けていたのかと思いました。では、今の大学に決めたのはなぜですか?
高校2年生の頃、すごく有名な若手のピアニストの方が地元に来ていて、運よくレッスンをしていただく機会があったんです。住む世界が違う!っていうくらい素晴らしい演奏をする方で、私もこんな人になりたい!って憧れが湧いてきて、その一心で音楽大学を受験しました。
すごく思い切りましたね。
周りからは大反対されました。試験は聴いた音を楽譜に起こす聴音や、演奏の知識を問うものもあるんですけど、メインは実技なんですよ。だから、取り戻さなくちゃと思って1年間はコンクールにもたくさん出て腕を磨きました。
でも、やっぱりだいぶ戻っちゃってて……。最初は指も動かなかったし、頭の中で確立されたイメージを音で表現しなくちゃいけないんですけど、その方法も忘れてました。
父の想いを胸に挑む“最大の目標”
それでも今の大学には無事に合格できたんですよね?
そうなんですけど、入学してからは周りとの実力差を感じてすごく落ち込んでました。
例えばテストは複数の曲を弾かないといけないし、自分の演奏以外にも他の楽器の伴奏やアンサンブルもあったりして、それを一度に練習しなきゃいけないんです。
同級生には音楽高校出身の子もいて、そういう子たちは複数の曲を並行して仕上げる力がありますし、半期に1回試験があって、私は思うような順位や点数じゃないこともあったんですけど、そこで1位や2位の子は本当に上手だし技術も安定してて、大学入学前から活躍してました。
試験で順位が付くんですか。中高6年間の差は大きいですね。心は折れなかったですか?
折れそうになりました。でも、父が支えてくれたんです。
父は私が音楽大学へ進学することに反対していましたが、実は大学1年生の頃に病気で急に亡くなってしまって。もともと持病もなく本当に突然だったんですけど、最後に喋ったのがピアノを練習している時で、その時に「せっかく入学したんだからやり切れよ。」って声をかけてくれたんです。
父のその言葉が諦めずにやらなきゃいけないっていう気持ちにさせてくれました。
そんなことが……。その時は何気ない会話ですが、今でも心に残ってるんですね。
すごく残ってますね。音楽表現コースのピアノ専攻に入ると、みんな3年生の1月にある『コンチェルト試験』という大きな試験を目標に頑張るんです。40人ほどのオーケストラをバックに演奏する協奏曲のピアノソロを決めるオーディションで2人選ばれるんですが、私にとっても入学前からの目標だったので、そこまでは諦めずに頑張ろうって思いました。
でも、2人しか選ばれないなら勝ち抜くのは簡単じゃないですよね。
そうなんですよ。だから対抗というよりは自分の良さを伸ばせるように意識しました。
ある時、先生から「音の引き出しがたくさんあるところがいいところだね。」って言われたんです。可愛らしい雰囲気だったり、逆に激しい感じだったり、表現の幅が広くて個性的ということだそうなんですが、そういう部分を考えて練習していたらすごく伸びてるよって言ってもらえました。
実際にコンチェルト試験の1つ前の試験で3位を取れたので、あと一息頑張ったら手が届くんじゃないかってところまできたんですよ。
本当にあと一歩ですね! そこからも必死に練習という感じですか?
過去一番練習しました。学校の授業が終わったら寝る前までずっと練習。毎日5~6時間はやってたかな。試験の1か月くらい前は電車の移動の時も楽譜を見たりして、本当に一日中コンチェルト試験のことを考えてるみたいな。今振り返ったら自分でもストイックだったなって思います。
試験の結果はどうだったんですか?
それが……結局3位のままでした。届かなかったんです。
本当にギリギリ、一歩及ばずだったんですね。落ち込んだんじゃないですか?
ピアノは普段1人で弾くので、誰かと一緒に大きい曲を演奏することが夢というか憧れで、コンチェルトはすごく貴重な機会なんですよ。でも、私はもう二度とそれを経験できないと思うと呆然というか、しばらくはもう何もやる気が出ないという感じが続きました。
力を入れて頑張ったので、その分の反動が大きかったんですね。
その結果が出た日に先生からメールが来て。普段はそんなのはないんですけど「すごくいい演奏で君の中で一番だった。人生にはこういう風に上手く行かないこともあるけど、頑張ってこれからも……」って書いてあって。
でも、それを見てさらに落ち込みました。今この瞬間に叶えたかったのに、これからの人生頑張れって言われても……って思ってしまったんですよね。
喪失と再挑戦
励ましも落ち込んでるとそう感じてしまいます。どうやって気持ちに整理を付けたんですか?
そこから就職活動が忙しくなってきたのと、知り合いの方から半年後くらいに私の住んでいる三重県でコンチェルトのソリストを選ぶオーディションがあるって聞いて。もう1回チャンスを掴めたらいいなと思ってそのオーディションに応募しました。
学校とは別のものですよね?どういうものなんですか?
全く別です。去年はベートーヴェン生誕250周年だったので、それを記念して『皇帝』っていう有名な協奏曲を演奏するイベントだったんですけど、私が幼稚園の時に初めて立ったステージがその会場だったんですよ。本当に普通のホールなんですけど、家の近くにあって何十回も立った思い入れのある原点みたいな場所だったので、これは絶対に出演したいって強く思ったんですよね。
それで再チャレンジしたんですね。
大学4年生の9月にオーディションがあって、就活や大学の試験と被っていてなかなか時間が取れず悩みながら練習していたんですが、幸い合格することができました。
それはすごいですね!やったじゃないですか!
でも、演奏会がおこなわれる11月までの3か月が大変でした。一度もオーケストラと合わせたことがなかったので、どういう風に40人の方を引っ張っていったらいいかわからなくて。初めての練習の時は全然合わずこれから本当に大丈夫かなって不安でした。
だけど、私より年上の人が8割9割だったので、私が引っ張るというより一緒に音楽を作っていくという気持ちで色々とアドバイスをもらうようにしたんです。他の方がやりたいことを理解せず1人で演奏しても仕方ないですからね。
ありがたいことに失敗しても支えてあげようっていう空気を作っていただいたので、すごくやりやすかったです。
3か月練習していよいよ本番。緊張はありましたか?
実は前日と当日のリハーサルがボロボロで、なんでダメなのか自分でも原因が分からないっていう。3か月みっちり練習したはずなのに、リハ中に演奏を止めてしまうくらいなぜか突然ダメになって。
どうして急に……
ピアノって自分のコンディションを整えることが大事で、その日の気持ちでも演奏が変わってしまうんです。体調もそうなんですが気持ちの面でもアスリートみたいに本番をピークに持っていく。それが上手く出来てなかったんだと思います。
最後のリハが本番5時間前。そこからは楽屋にあった小さいピアノで、いつも弾かないんですが、直前までなんとかしなきゃ!って感じでした。
そんな状態でなんとかなったんですか?
なりました(笑)ステージに立ったら悪いイメージは全て忘れようって切り替えて。もう無我夢中で弾きましたね。
終わってから周りから「本番の前は声かけるか迷った。」って言われるほど緊張してたみたいで。自分ではプレッシャーだと気付いてなかったんですけど、舞台裏に弾き終わった時に涙が一気にバァーって溢れてきて、これだけ自分で自分に重圧をかけてたんだって。
緊張の糸が切れた感じですね。
たぶんそうだと思います。やっと解放されて、やっと思い出に浸れるなって。折角のピアノコンチェルトだったんですが、期間中はやった~!というより絶対成功させなきゃ……!って気持ちの方が強くてオーディションに受かっても喜ぶ余裕もなく、そこでやっと喜べましたね。
夢だったピアノコンチェルトのソリスト。それを叶えてどんな気持ちですか?
同じ分数を1人で演奏するのと、コンチェルトのソリストをするのでは何十倍も準備とプレッシャーを背負っていかないといけないんだなって思ったので、やり甲斐がありました。
でも、すごく大変でプロのピアニストの方を改めて尊敬しました。今振り返ると懐かしさというか、久しぶりにそこに立って演奏できたことが嬉しかったです。それと同時に、大学生活の中で一番の目標にしてたことが達成できたので、やり切ったなっていう気持ちでいっぱいです。